2014/08/17

若い鳥と老いた鳥


老いた鳥は若い鳥に言いました


「ある日突然 羽根がぴくりとも動かなくなる時が来る
ある日突然 さえずる舌を どちらに動かしたらいいかわからなくなる時が来る
太陽がのぼるまでできていた当たり前のことが できなくなるんだ
飛ぶ事も歌う事もできない 
想像できるかい?」


「飛べなくなったら困るな
明日は海の向こうに見える島まで行く約束をしてるんだ
歌えなくなったら困るな
彼女が好きだなんて 照れくさくて言えないから」


若い鳥の瞳は青く澄み、力強く、おそれを知りません
老いた鳥は愛しそうに その瞳を見つめて続けます


「勇敢な若い戦士 おまえはわたしの誇りだ
いいかい
もしおまえが どうしようもない恐怖と悲しみに包まれるようなことがあったら
覚えていてほしいんだ
おまえがお腹の中にいた時の音を
肯定と希望の音そのものだ
すべての動きを止めないと
その音は聴こえてこない
みな忘れちまうんだ
我々は
ただただそこにいなさいと
すべてに祝福されて 生まれてきたということを
忘れちゃいけないよ」


淡くにごった金色の瞳は シワだらけのまぶたにゆっくり隠されていきます


若い鳥は 飛べなくなる事も 歌えなくなる事も 想像できません
まだ見てない素晴らしい世界があるのに
じっとなにもしないなんて!
どこへいきなにをしようと、毎朝いてもたってもいられないのですから


若い鳥は 老いた鳥の話をすぐに忘れ
明日の冒険に胸を踊らせながら
眠りにつきます


彼が肯定と希望の音と出会うのは またべつのおはなし。



rico